「ヤマト1974の特徴は、戦闘に際してヤマトの装備よりも生身の人間または自然現象で勝利を手にするパターンが多いことだ」
- タイタン→生身の人間と等身大のロボだけでガミラスを倒す
- 冥王星→決死隊
- アステロイドベルト→岩盤で守る
- 宇宙機雷→手でどかす
- アルファ星→コロナを撃つ。ガス生命体はアルファ星に焼かれる
- 宇宙要塞→乗り込んで爆破
- バラン星→あの太陽を撃て
- 七色星団→ドリルミサイルに潜入して逆回転
- ガミラス星→海に潜るんだよ
「それで?」
「ところが、2199は戦闘に際してヤマトの装備ないし航空機で解決してしまうことが多いように思える」
- ヤマトが復活する前に防空隊が来てくれる
- 浮遊大陸→ショックカノンを強引に撃って交戦してしまう
- エンケラドゥス→コスモゼロが助けに来てしまう
- 冥王星→航空機とヤマトの装備で勝つ
「そこが決定的な違いというわけだね」
「ヤマト1974は、機械力に頼りすぎて隙だらけのガミラスに、科学技術で劣る地球人が生身の身体で勝ってしまうという寓話なのだ、とすれば2199はあまりその寓話のリメイクになっていないのかも知れない」
つまり §
「2199は『波動砲を人に向けて撃たない』にこだわっているのだが、逆説として波動砲以外はいくらでも人に向けて撃つ。結果として、武器による解決が増えているのが特徴だろう」
「たとえば?」
「浮遊大陸の基地に艦隊を追加して無駄に武力衝突を増やしている」
「あそこはもっと艦内の人間ドラマを描くべきところ、というわけだね?」
「絵コンテには同じエピソードに南部の挨拶とかあったのに切られている。ワープと波動砲をやるには尺が足りないという言い訳は成り立たない。何せ、補給基地の艦隊そのものはどちらにも関係ないのだから」
「切るならあの4隻を切れってことだね」
「あの4隻はアニメとしての描写は良いのだが、ワープと波動砲を詰め込んだエピソードに更に詰め込むのは無理があると思う」
「スタッフはそう思わないのだろうか?」
「思っているスタッフもいるだろうが、メインのところは思っていないのだろう」
「なぜシナリオを改悪しちゃうの?」
「『改悪? 改良しているのだよ(ニヤリ)』ときっと思っているからだ。彼らが問題だと思うものを改訂していくことで成立している以上、それは彼らの心象世界では改良にあたる」
「分かった。好きこのんで改悪したがる奴はいない、ということだね」
「その通りだ。どんなにつまらない映画でも、つまらなくしようと思って作ってる人はまずいない。どこかでボタンを掛け間違ってつまらなくなってしまう映画はあるけどね」
「じゃあ、スタッフの視点ではなく君の視点から見ると何が見える? なぜ浮遊大陸のエピソードは甘くなった?」
「浮遊大陸だけ甘いと言う話は無い。全体的に2199のシナリオが甘いから浮遊大陸も甘かっただけだろう」
「シナリオが甘い?」
「具体的には人物描写が甘い」
「たとえば?」
「森雪の無駄なスーパーウーマンぶりを解体するのはまあいいとして、その後で森雪に魅力を与えることには失敗している。せいぜい、サーシャに似ていることぐらいしか引っ張る要因が無いが、それも宇宙人の親戚ネタでギャグになるだけでは不発」
「確かに弱いね」
「それだけじゃない。司令部のオペレーターだったはずなのに少人数の子供相手に語り聞かせを行っていて、やはり無駄に複数の役割を兼務するスーパーウーマンになってしまっている。何のために役割を解体したのか分からない」
「萌えキャラを無駄に増やすため?」
「それは分からない。しかし、これだけキャラが多いアニメで役割は曖昧なキャラはそれだけで印象を弱くするマイナス要因だ」
「キャラにも作品にもマイナスということだね」
「他にも岬百合亜のように、艦橋の交代要員だか艦内DJだか分からないキャラもいて、問題は森雪に限定されない」
「他には?」
「アナライザーも実は位置づけが曖昧化している」
「ひ~」
「機関室も山崎がいる理由があまり無い。実際には徳川と薮だけで機関室のシーンは成り立ってしまう」
「上司と部下なら2人でいいわけだね」
「徳川を第1艦橋に常駐させ、現場の指揮官が山崎という位置づけならまだしも存在意義はあったのだけど、徳川さんが機関室まで降りてきたらねえ」
「確かに。なぜ徳川の席が第1艦橋にあるのか悩むね。ヤマト1974でもだけど」
「逆に目立つべきでは無いキャラが過剰に目立った事例もある。たとえば土方は目立ちすぎ。あれほど目立つ意味があるのかと言えば、そこはかなり疑問だ。地球で待っている人の代表としては既に藤堂がいるのだ」
「藤堂が目立たないね」
「本来なら彼が担うべき立場を土方が食ってしまっている」
「他には?」
「山本も1回限りのゲストキャラぐらいで良かったはずだ」
「その分だけ主要キャラの出番が食われているだけだね」
「そもそも、時間を削って進行を早めているのにこれだ。島の出番とか、かなり割を食っているような気がするぞ。あまり印象に残らない」
「シロクマ君、まとめてよ」
「良いシナリオは全ての登場人物の出番に意味があるが、2199はあまり意味の無いキャラの出番がけっこう多いような気がする」
「それだけ?」
「無駄に問題を起こすキャラが少なすぎるという面もあるな。行進中のヤマト乗組員に面と向かって罵声を浴びせるキャラもいないし、古代も問題児としての要素が削られている。逆に新キャラは無駄に優秀すぎて問題を起こさない。山本とか上手すぎて、むしろ山本を抜擢しなかった加藤に問題があるように見えてしまうが、糾弾される前に加藤も山本のパイロット化を承認してしまう。意味なくトラブルが起きないように配置されてしまっている」
「他の出渕作品ではどうなのさ」
「ラーゼフォンはもっとシナリオの出来は良かったと思うよ。まあ多少設定過多、登場人物過多の傾向はあったけど、致命的ではない水準だ」
「ふーん。それで君の意見は?」
「登場人物っていうのは、増やすよりも削る方が大変なんだ。本当に手間暇掛けたシナリオは登場人物を少なくできるはずだ。それは背景に登場する登場人物Aに明確な名前と役割を与えることとは意味が違う。ドラマに絡んでくるキャラは減らせるということだ。1話限りの登場人物を含めてね」
ぶっちゃけ §
「ぶっちゃけ、それはどういう意味なのさ」
「復活篇、SBヤマトと比較して、2199のシナリオはもの足りないと感じる。個々のシーンに関しては出来の良いものも多いのでそれほど気にならないが、全体として見るとちょっと甘い面が出てくる」
「結局それって何なのさ」
「さあ」
「さあって」
「もしかしたら、個々のシーンの改善は全体の改善とイコールでは無いのかも知れない」
ぶっちゃけ2 §
「ぶっちゃけ、それはどういう意味なのさ」
「2199の企画がなかなか日の目を見なかった理由はそれかもしれない。復活篇、SBヤマトという流れでヤマトブームの兆しが見えたのでやっとゴーサインかも知れない」
「それでも2199に期待するの?」
「ヤマトだからな」
ぶっちゃけIII §
「ぶっちゃけ、ヤマトだからってそれは理由になってないよ」
「じゃあ、もっと詳細化しようか?」
「うん、頼むよ」
「アニメの善し悪しなんて演出家の気分次第でいくらでも変わりうるからね。シナリオはあくまで参考で、跡形も無いぐらい改変しちゃう演出家だって存在する。もちろん、シナリオライター側からすれば大問題だけど、ここではそれを横に置く」
「現実問題として、シナリオの水準が10でも、出来てくるアニメが100ってことはあるわけだね」
「しかもそれは一定しない。同じ演出家でも、作品の約束事をまだ把握していない初期には10のシナリオで10しか出せないかもしれないが、乗ってきた末期には100を出せるかもしれない。あるいは本当に気分次第で変わるかも知れない」
「ヤマトは古い原作だから、把握できていないってことはないんじゃない?」
「ヤマト2199の約束事はまた別だからね」
「なるほど。結局ヤマトのリメイクであろうと、最終回まで見ないと結論は出せないわけだね」
「あとゲスト演出家が何をするのかで大きく変わる可能性もある。第3話が良い例だ。ヤマト描写の絵の質が全く違う」
「実写の監督ならではってことだね」
「だから、演出家でアニメは変わりうる。細田守が演出するとひみつのアッコちゃんでもワニワニと持ち味が変わってしまうわけだ」
「それにどんな意味があるの?」
「第3話の樋口さんの監督作の『のぼうの城』を細田さんが見たようだ。Twitterにつぶやていたのを見たような記憶がある」
「歴史ものだろ? 君は知ってるの?」
「コミック版なら単行本を買って読んだ。まさか樋口さんの映画で見る日が来るとは思わなかった」
「ひ~。見る気、満々だよ」
「いやほんとに。あのときは、まさかヤマトークで名前が出る映画になるとは思っていなかった」
「そもそもヤマトークというイベントが行われることすら想像出来なかった時代だろ!」
HMSオマケ §
「最初見た時はツボだと思った。こういうのが好きやねん」
「どのへんが?」
「HMSというのもいいし、形状も構造もツボだ」
「それは良かったね」
「でもさ、そこで立ち止まって考えた」
「えっ?」
「これで本当に良いのだろうか。このデザインに問題は無いのだろうか。何か付け足すものは無いのだろうか。明日への希望は無いのだろうか」
「いや、最後の1つは違うから。違う話題だから」
「これはあくまで自分の気持ちの問題として言うのだが、このデザインは確かにツボだ。しかし、自分でアレンジして変更しようかと思うと、実は山のように変えたい場所があることに気づいた」
「えー」
「むしろ、ツボであるがゆえに注文が厳しいのかも知れない」
「他に感想は?」
「むしろテスター4号に近い雰囲気があるのだが、テスターのナンバリング機では4号がいちばん好きだったので、ある意味で順当な結果だな」
「ならば君ならどうする?」
「今さらメカデザイナーを目指す気は無いよ。それはプロに任せる」
「ヤマトのデザインは語ってるだろ」
「それはまた別だ。ヤマトのデザインはもっといじる余地がある。100%の完成形とは言えない。別の見せ方が有り得ることを、波動実験艦ムサシや宇宙空母シナノがそれを示した。だが2199ヤマトは窮屈で息苦しい。穴は開けてみたい」
「穴なんて開けていいのかよ」
「いいのだ。なぜなら、戦艦大和に存在しない艦首と艦尾の穴を開けたのが宇宙戦艦ヤマトだからだ。穴を開けることはヤマト化の第一歩」
「穴の意味が違う」